「障害」「障がい」「障碍」の違いとは?表記が分かれる理由をやさしく解説
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「役所の書類は『障害』なのに、市の広報は『障がい』になっている」
「どれを使うのが正解なんだろう?」
障害のある子を育てていると、この表記の揺れに必ず出会います。国の法律は「障害」、自治体の文書は「障がい」、団体によっては「障碍」。同じ言葉なのに、書き方が3通りあるのです。
この違いには、それぞれきちんとした理由があります。そして「どれが正しい」という決着はついていません。当事者の間でも意見が分かれているためです。
この記事では、3つの表記が生まれた経緯と、国・自治体がどう扱っているか、そして当ブログが「障害」表記を選んでいる理由までを整理します。どの立場が正しいかを決めるためではなく、なぜ揺れているのかを知るための記事です。
- 3つの表記の違いを一覧で
- 「障害」という表記はどこから来たか
- 「障がい」ひらがな表記が広がった理由
- 「障碍」と、常用漢字をめぐる議論
- 当事者の間でも意見が分かれている
- 表記より大事だと感じること
- 当ブログが「障害」表記を使う理由
- よくある質問
- まとめ
3つの表記の違いを一覧で
まず全体像を整理します。
| 表記 | 主に使う場面 | 背景にある考え方 |
|---|---|---|
| 障害 | 法律・国の文書・多くの公的機関。障害者基本法、障害者手帳、障害基礎年金など | 現行の常用漢字で書ける唯一の表記。法令用語として統一されている |
| 障がい | 自治体の広報や条例、企業のCSR文書など | 「害」の字が人に対して使うには不適切という考えから、ひらがなに置き換えたもの |
| 障碍 | 一部の団体・研究者・当事者団体 | かつて使われていた表記に戻すべきという立場。「碍」は常用漢字表にない |
ポイントは、3つとも「間違い」ではないということです。それぞれ根拠があり、使う場面が違います。
「障害」という表記はどこから来たか
「障害」という書き方は、実は比較的新しいものです。
もともと日本語では「障碍」「障礙」という表記が使われていました。「碍」「礙」はどちらも「さまたげる」という意味の字です。仏教語としては「しょうげ」と読み、「さわり・妨げ」を意味する言葉でした。
それが「障害」に変わった直接のきっかけは、戦後の漢字政策です。使用する漢字を制限する当用漢字表(1946年)に「碍」「礙」が含まれなかったため、同じ音の「害」で代用する形が広まりました。いわゆる代用字です。
つまり「障害」の「害」は、「害悪」「害虫」といった意味を込めて選ばれた字ではなく、書ける漢字がなかったための置き換えだったことになります。ここが議論の出発点です。
現在、障害者基本法・障害者総合支援法・障害基礎年金など、国の法令はすべて「障害」で統一されています。手帳の名称も「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」です。
「障がい」ひらがな表記が広がった理由
「害」が代用字だとしても、実際に読んだときに「害」という字が目に入ることに変わりはありません。「人に対して『害』の字を使うのは適切でない」という考えから、「害」だけをひらがなにする書き方が広がりました。
この表記は自治体を中心に採用が進み、広報誌・条例・部署名などで見かけるようになっています。一方で、次のような指摘もあります。
- 法令用語とずれる…法律や制度の正式名称は「障害」のままなので、公文書内で表記が混在する
- 検索や事務処理で不都合が生じる…同じ言葉が2通りに書かれることで、資料の検索性が下がる
- 本質的な解決になっていないという批判…表記を変えても社会の側の障壁は変わらない、という指摘
- 読みにくさ…漢字とひらがなが混ざることで可読性が下がるという意見
大切なのは、ひらがな表記を採用する側にも、しない側にも配慮の意図があるという点です。どちらかが差別的でどちらかが良心的、という単純な構図ではありません。
「障碍」と、常用漢字をめぐる議論
3つ目の立場が、もともとの「障碍」に戻すべきという考え方です。「害」でも「がい」でもなく、本来の字を使えばよい、という主張になります。
ただし「碍」は常用漢字表に入っていないため、公文書や教科書で自由に使える字ではありません。そこで「碍」を常用漢字表に追加すべきかどうかが国レベルで検討されました。
経緯は次のとおりです。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 1946年 | 当用漢字表に「碍」「礙」が入らず、「障害」の表記が広まる |
| 2018年 | 衆議院文部科学委員会・参議院文教科学委員会の決議で、「碍」を常用漢字表に追加する可否を検討するよう求められる |
| 2021年 | 文化審議会国語分科会が、「碍」の常用漢字表への追加を見送ると決定 |
見送りの理由として示されたのは、主に次の2点です。
- 常用漢字表は円滑なコミュニケーションのための目安であり、検討過程にある課題を周知・問題提起するために漢字を追加するのは、常用漢字表の趣旨に合わない
- 「しょうがい」の表記について、当事者の間にも多様な意見がある
2つ目の理由が、この問題の核心を表しています。国が決めきれなかったのは、当事者の意見が一つにまとまっていないからです。
出典:障害保健福祉研究情報システム「[文化庁]『碍』の字を常用漢字表に追加することを見送り」
当事者の間でも意見が分かれている
実際に、当事者や家族の受け止め方はさまざまです。代表的な立場を挙げると次のようになります。
- 「障害」でよい…障害は個人ではなく社会の側にある障壁を指す言葉なので、字を変える必要はない。法令と統一されているほうが混乱がない
- 「障がい」がよい…「害」の字を自分や家族に当てはめられるのはつらい。読んだときの印象は無視できない
- 「障碍」に戻すべき…そもそも代用字なのだから、本来の表記に戻すのが筋である
- どれでもよい…表記より、制度や社会の対応のほうがはるかに重要である
どれも筋の通った考え方です。だからこそ、「この表記を使う人は配慮が足りない」といった決めつけは避けたいところです。
実務的に知っておくと役立つのは、制度の正式名称は「障害」で統一されているという点です。申請書類や制度名を調べるときは「障害」で検索したほうが確実に情報にたどり着けます。制度の入口については3種類の障害者手帳の解説もあわせてご覧ください。
表記より大事だと感じること
障害のある子を育てる立場から正直に書くと、日々の生活でこの表記の違いに困る場面は、ほとんどありません。
実際に困るのは、もっと具体的なことです。
- 使える制度の情報が、必要な人に届いていない
- 申請の手続きが複雑で、窓口ごとに説明が違う
- 支援サービスの空きがなく、順番待ちになる
- 周囲の理解が得られず、外出をあきらめる場面がある
この記事は表記の話をしていますが、表記を整えることと、実際の障壁をなくすことは別の課題だと感じています。もちろん言葉が人の意識に影響するのは確かなので、表記の議論に意味がないとは思いません。ただ、どちらか一方で終わりにしないことが大切なのだと思います。
「障害は個人ではなく社会の側にある」という考え方(社会モデル)に立てば、変えるべき対象は字よりも環境ということになります。この考え方は、国の子ども政策の理念にも反映されています。
当ブログが「障害」表記を使う理由
このブログでは、原則として「障害」の表記を使っています。理由は3つです。
- 制度の正式名称と一致するから…扱っているのは特別児童扶養手当や障害基礎年金といった制度の話です。制度名を正確に書かないと、読者が申請や検索をするときに支障が出ます
- 検索して情報にたどり着けるようにするため…困っている人が検索する言葉で書かないと、必要な情報が届きません
- 「害」を代用字として理解しているから…前述のとおり、この字は意味を込めて選ばれたものではありません
これは「障がい」「障碍」を否定する立場ではありません。制度情報を届けることを目的にしたブログとして、法令と同じ表記を選んでいるという位置づけです。ご自身やご家族の表記の好みが別にある方も、どうか気にせず読んでいただければと思います。
よくある質問
Q. 結局、どの表記を使うのが正しいのですか?
唯一の正解は決まっていません。国の法令はすべて「障害」で統一されている一方、自治体の広報などでは「障がい」が広く使われており、「障碍」を使う団体もあります。2021年に「碍」の常用漢字表への追加が見送られた際も、その理由の一つとして当事者の間に多様な意見があることが挙げられました。公的な書類や制度名を書くときは法令どおりの「障害」を使い、それ以外は所属する組織の方針や相手の希望に合わせるのが実務的です。
Q. 「障害」の「害」には、害悪という意味が込められているのですか?
もともとは「障碍」「障礙」と書かれていましたが、戦後の当用漢字表に「碍」「礙」が入らなかったため、同じ音の「害」で代用されたのが「障害」という表記の由来です。意味を込めて選ばれた字ではなく、書ける漢字がなかったための置き換えとされています。ただし、読んだときに「害」という字が目に入ることに変わりはないため、ひらがな表記を選ぶ考え方も生まれました。
Q. なぜ自治体によって「障害」と「障がい」が違うのですか?
表記の統一を義務づける法律がなく、各自治体が独自に方針を決めているためです。「害」の字を人に対して使うのは適切でないという考えからひらがな表記を採用する自治体がある一方、法令用語との整合性を重視して「障害」を維持する自治体もあります。ただし、法律に基づく制度の正式名称(障害者手帳、障害基礎年金など)はどの自治体でも「障害」のままです。
Q. 書類に書くときは、どちらで書けばよいですか?
制度名や正式名称を記入する欄は、法令どおりの「障害」で書くのが確実です。自由記述の欄はどちらで書いても受理されないということはまずありません。なお、お住まいの自治体が「障がい」表記を採用していても、申請する制度の正式名称は「障害」のままであることが多いので、書類の様式に合わせて記入すれば問題ありません。
まとめ
- 「障害」は戦後の漢字制限による代用字。もとは「障碍」「障礙」と書かれていた
- 「障がい」は「害」の字を人に使うことへの配慮から広がった表記。自治体を中心に採用されている
- 「障碍」は本来の表記に戻すべきという立場。ただし「碍」は常用漢字表になく、2021年に追加は見送られた
- 見送りの理由の一つは当事者の間にも多様な意見があること。決着はついていない
- 制度の正式名称はすべて「障害」。申請や検索の場面ではこちらを使うのが確実
表記が3通りあると聞くと「正解を知らないと失礼になるのでは」と身構えてしまいますが、実際には国も当事者団体も一つの答えを出していないのが現状です。
だからこそ、どの表記を見かけても、その背景にある考え方を知っていれば十分だと思います。そのうえで、目の前の子どもにとって何が必要かという話に時間を使いたい——というのが、書きながら改めて感じたことです。