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障害児家庭の防災|避難所に行けない前提で「在宅避難」に備える

障害児家庭の防災|避難所に行けない前提で「在宅避難」に備える

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「地震が来たら、避難所には行けないと思う」

障害のある子を育てていると、多くの親御さんがこう感じています。体育館に大勢が集まる空間で、音や光に耐えられるか。大声を出したときに周りの目が耐えられるか。おむつを替える場所はあるか。決まったものしか食べられない子に、配られた食事が食べられるか。

だからこの記事は、「避難所に行く」を前提にしません。地震のあと、自宅が無事ならそのまま自宅で過ごす――つまり在宅避難を前提に、何を備えておくかを整理します。

そして在宅避難には、ひとつだけ絶対の条件があります。家が壊れていないことです。ここも後半でしっかり扱います。

なぜ障害児家庭は「避難所に行きにくい」のか

一般的な防災情報は「避難所へ避難しましょう」と書かれています。でも実際に想像してみると、障害のある子にとってはハードルがいくつも重なります。

  • 感覚の問題。人の話し声、放送、照明、におい。刺激が多い場所ではパニックになりやすい
  • 声・動きが止められない。「静かにして」が難しい子は、親が謝り続けることになる
  • 食べられるものが限られる。偏食が強い子や、きざみ食・ミキサー食が必要な子には、配給がそのまま使えない
  • おむつ・排泄の問題。学齢期以降のおむつ替えができる場所がない避難所は多い
  • 医療的ケアが必要。吸引・注入・在宅酸素などは、清潔な場所と電源が要る
  • その場を離れられない。目を離すと外に出てしまう子だと、親が24時間気を張ることになる

つまり「行かない」のではなく、「行っても続かない」のです。だからこそ、最初から自宅で過ごす前提で備えるほうが現実的だと考えています。

福祉避難所は当てにできる?知っておきたい実際

「うちには福祉避難所があるから大丈夫」と思っている方もいるかもしれません。ここは期待と現実のギャップが大きいところなので、正確に書きます。

制度は改善されている

内閣府は令和3年(2021年)5月に「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を改定しました。改定のポイントには次のものが含まれています。

  • 指定福祉避難所の指定と、その受入対象者の公示
  • 指定福祉避難所への直接の避難の促進
  • 避難所の感染症・熱中症・衛生環境対策

特に大きいのが2つめです。以前は「まず一般の避難所へ行き、そこで必要と判断されたら福祉避難所へ移る」という流れが基本でした。改定後は事前に受入対象者を調整しておくことで、はじめから福祉避難所へ直接避難できるようにする方向へ変わっています。

ただし、過信はできない

一方で、自治体の案内には次のような但し書きが並びます。

  • 受け入れられる人数は限られている。配慮が必要と判断された人が対象で、誰でも移れるわけではない
  • 発災から開設までに数日かかることもある

ここが決定的です。いちばん困るのは発災直後の数日間なのに、その時間帯に福祉避難所が開いているとは限りません。だとすれば、やはり最初の数日を自宅でしのげる備えが要ります。

そのうえで、お住まいの自治体で指定福祉避難所がどこか、受入対象者に自分の子が含まれるかは、今のうちに確認しておく価値があります。公示されている情報なので、市区町村の防災担当や障害福祉担当に聞けば教えてもらえます。

「個別避難計画」を市町村と一緒に作っておく

もうひとつ、必ず知っておいてほしい制度があります。個別避難計画です。

災害対策基本法では、平成25年(2013年)の改正で避難行動要支援者名簿の作成が市町村の義務とされました。さらに令和3年(2021年)の改正で、個別避難計画の作成が市町村の努力義務となっています。

個別避難計画は、名簿に載っている人ひとりひとりについて、誰が支援するのか、どこへ避難するのか、避難のときにどんな配慮が必要かを決めておくものです。前述の「福祉避難所への直接避難」も、この計画づくりの過程で受入先を調整しておくことが前提になっています。

ポイントは努力義務であること。つまり、自治体によって取り組みの進み方に差があります。待っていても順番が回ってこないことがあるので、こちらから「個別避難計画を作りたい」と相談するのが確実です。相談先は市区町村の防災担当・障害福祉担当で、相談支援専門員やケアマネジャーが関わってくれるケースもあります。

計画を作る過程そのものに価値があります。「うちの子は音がだめ」「吸引に電源が要る」「知らない人に触られると混乱する」といった情報が、災害時に初めて会う支援者へ伝わる形で残るからです。

在宅避難の大前提は、家が壊れないこと

ここが在宅避難のいちばん大事な部分です。家が住める状態で残っていなければ、在宅避難という選択肢そのものが消えます。

目安になるのが建築時期です。建築基準法施行令の改正により、昭和56年(1981年)6月1日以降に建築確認を受けたものが新耐震基準、それ以前が旧耐震基準にあたります。耐震診断は原則として昭和56年5月31日以前に着工した建築物が対象とされています。

お住まいが旧耐震基準にあたる場合は、耐震診断と耐震改修に自治体の補助制度があることが多いです。国と地方公共団体が支援制度を設けており、ほとんどの自治体で診断・補強設計・改修工事への補助事業が実施されています。金額や条件は自治体ごとに違うので、市区町村の建築・住宅担当窓口で確認してください。

なお、この耐震改修の補助と、障害児のバリアフリー改修の助成は別の制度です。窓口も違います。両方を検討する場合は、それぞれの担当に確認が必要です。

お金をかけずに今日できるのは「家具の固定」

耐震改修はすぐには決められません。でも家具の固定は今日からできて、効果がはっきりしています。

とくに障害のある子の場合、地震のときに自分から身を守る行動が取りにくいことがあります。机の下にもぐる、頭を守る、といった判断が難しい子ほど、そもそも倒れてこない部屋にしておくことの重要度が上がります。

  • 子どもが長く過ごす部屋から先に手を付ける。寝室とリビングが優先
  • 寝ている場所の上・周りに背の高い家具を置かない。倒れてくる範囲に布団を敷かない
  • テレビ・電子レンジなど飛ぶものを固定する。転倒防止ベルトや粘着マットで対応できる
  • ガラスに飛散防止フィルムを貼る。裸足で動き回る子ほど、割れたガラスは危険
  • 避難経路に物を置かない。廊下と玄関に段ボールを積まない

すべてを一度にやろうとすると止まってしまうので、「子どもが寝ている部屋」からで構いません。

工具が要らない突っ張り式の転倒防止棒なら、賃貸でも今日から取り付けられます。伸縮幅が家具と天井のすき間に合うかを測ってから選んでください。

障害児家庭ならではの備蓄リスト

水・食料・懐中電灯といった基本の備蓄は、一般的な防災情報にゆずります。ここでは障害児家庭で特に必要になるのに、一般のリストには載っていないものを挙げます。

分類 備えておきたいもの 考え方
排泄 おむつ、おしりふき、防臭袋、簡易トイレ 支援物資のおむつはサイズが合わないことがある。今のサイズを多めに
食事 食べ慣れたもの、レトルト、とろみ剤、栄養剤 偏食が強い子ほど「食べられるものしか食べない」。日常の定番を切らさない
医療 常用薬、お薬手帳の写し、医療的ケアの消耗品 薬は残量に余裕を持たせる。処方の相談は主治医へ
感覚 イヤーマフ、サングラス、いつものタオル・毛布 音や光の刺激から守る。安心できる「いつもの物」は想像以上に効く
情報 絵カード、筆談ボード、ヘルプマーク 言葉で伝えにくい子の意思表示手段。支援者に状況を伝える助けにもなる
記録 手帳の写し、緊急連絡先、かかりつけ医、特性メモ 親が対応できない事態に備え、他人が読んでわかる形で1枚にまとめる

コツは「非常用に特別なものを買う」より「いつも使っているものを少し多めに持つ」ことです。使ったら買い足すローリングストックにすれば、期限切れも防げます。とくにおむつと食べ慣れた食品は、支援物資では代替がきかないと考えておいたほうが安全です。

なお、吸引器やイヤーマフなどは日常生活用具の給付対象になっている場合があります。制度で手に入るものは制度で、というのが基本です。

電気が止まったときの備え

停電は、障害児家庭にとって不便ではなく危険になり得ます。

  • 医療機器を使っている場合は最優先。吸引器、在宅酸素、人工呼吸器などは、内蔵バッテリーの持続時間、外部バッテリーの有無、停電時の対応を主治医と機器メーカー、そして自治体に必ず確認してください。自治体によっては非常用電源の貸与や給付を行っている場合があります
  • 暑さ・寒さ対策。体温調節が苦手な子は、冷暖房が止まること自体がリスクになります
  • 明かり。暗闇が苦手な子には、点けっぱなしにできるランタンがあると落ち着きます
  • 連絡手段。スマホの電池切れは、情報も連絡も同時に失います

ポータブル電源やモバイルバッテリーは、こうした場面の備えとして選択肢になります。医療機器に使う場合は、必ず機器の取扱説明書とメーカーの指示に従ってください。「使えるはず」で判断しないことが大切です。

災害時は「外に出てしまう」リスクも上がる

見落とされがちですが、地震の直後は玄関や窓が開けっ放しになり、家族も気が動転しています。普段は仕組みで止められていた子が、外に出てしまう可能性が上がる場面です。避難時に手をつなげない状況も起こり得ます。

日常の脱走対策と、居場所がわかる備えは、そのまま災害時の備えにもなります。

よくある質問

Q. 福祉避難所へ最初から直接行けますか?

令和3年5月のガイドライン改定で、指定福祉避難所への直接の避難を促進する方向になりました。ただし、これは事前に受入対象者の調整ができていることが前提です。誰でも当日行けば入れるわけではなく、受け入れ人数にも限りがあります。今のうちに、お住まいの自治体で指定福祉避難所と受入対象者を確認し、個別避難計画の相談をしておくのが確実です。

Q. 個別避難計画は誰が作ってくれますか?

作成の主体は市町村ですが、令和3年の災害対策基本法改正で努力義務とされているため、進み具合には自治体差があります。待っているだけでは順番が来ないこともあるので、こちらから市区町村の防災担当や障害福祉担当に相談するのが早いです。相談支援専門員が関わってくれる場合もあるので、担当の方がいれば一緒に相談してみてください。

Q. 賃貸に住んでいる場合、耐震はどうすればいいですか?

建物の耐震改修は所有者の判断になるため、入居者が単独で決めることはできません。まずは建物の建築時期を確認するところからです。新耐震基準は昭和56年6月1日以降に建築確認を受けたものが目安になります。そのうえで、入居者ができるのは家具の固定、ガラスの飛散防止、寝る場所の配置換えです。これらは費用が小さいわりに効果が大きく、賃貸でも実行できます。

Q. 備蓄は何日分あればいいですか?

一般には3日分から1週間分が目安とされますが、障害児家庭では「支援物資では代替できないもの」を基準に考えるほうが実用的です。水や乾パンは配られても、その子のサイズのおむつや食べ慣れた食品、常用薬は届かない可能性があります。代替がきかないものほど多めに、代替がきくものは一般的な目安でという配分にすると、限られた収納でも現実的な備えになります。

まとめ

  • 障害児家庭にとって避難所は「行かない」のではなく「行っても続かない」。在宅避難を前提に備えるほうが現実的
  • 福祉避難所は制度が改善されている一方、受け入れ人数に限りがあり、開設まで数日かかることもある
  • 個別避難計画は市町村の努力義務。待たずにこちらから相談する
  • 在宅避難の大前提は家が壊れないこと。旧耐震なら診断・改修の補助制度を確認する
  • 今日できるのは家具の固定。子どもが寝ている部屋から始める
  • 備蓄は支援物資で代替できないものを厚くする。おむつ・食べ慣れた食品・薬・感覚グッズ
  • 停電は不便ではなく危険になり得る。医療機器がある場合は主治医・メーカー・自治体に確認を

全部をいっぺんに整えるのは無理です。まずは自治体に「個別避難計画を作りたい」と電話するか、子どもが寝ている部屋の家具を固定するか。どちらか片方からで十分に前進です。


※制度・金額に関するご注意
本記事に記載の制度内容は、執筆・更新時点の情報です。福祉避難所の指定状況、個別避難計画の取り組み状況、耐震診断・改修の補助内容は、お住まいの自治体により異なります。最新の情報は必ずお住まいの市区町村の窓口や公式サイトでご確認ください。

※医療的ケアに関するご注意
医療機器の停電時の取り扱いについては、必ず主治医および機器メーカーの指示に従ってください。本記事の内容は医学的な助言ではありません。

出典
内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」(平成28年4月/令和3年5月改定)/内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」/高知県「福祉避難所について」/国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」

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